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大阪地方裁判所 昭和43年(ワ)6538号 判決 1970年6月27日

原告

田上征男

ほか一名

被告

久保末太郎

主文

一、被告は原告田上征男に対し金四三三、一六五円、原告池田文男に対し金一〇〇万円およびこれらに対する昭和四三年一一月二三日から右各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告田上征男のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

四、この判決は一項にかぎり仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告ら

被告は原告田上征男に対し金五〇万円、原告池田文男に対し金一〇〇万円およびこれらに対する昭和四三年一一月二三日(訴状送達の翌日)から右完済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言。

二、被告

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決。

第二、当事者の主張

一、原告ら、請求原因

(一)  本件事故の発生

日時 昭和四〇年一二月一四日午前八時一五分ごろ、

場所 大阪市城東区新喜多三丁目九〇番地先

運転者 訴外高橋一郎

事故車 大型貨物自動車(大一き九二二一号)

態様 原告田上は、原告池田を同乗させて普通貨物自動車を運転して北から南へ進行し、交差点横断歩道手前で赤信号に従い停車中、後方から進行してきた事故車が追突した。

受傷 原告田上は大後頭三叉神経症候群、原告池田は脳しんとう、頭蓋内出血、右肘部挫傷、頸椎捻挫の傷害をうけた。

(二)  帰責事由(自賠法三条さもなくば民法七一五条二項)

1、被告は事故車の所有名義人であり、自己のために運行に供していた。なお事故車の任意保険契約者は被告であり、被告が経営していた訴外扶桑運輸株式会社(以下扶桑運輸という)は被告の個人会社で、実質的には被告が事故車の保有者である。

2、被告は扶桑運輸の代表者(社長)であり、直接従業員の訴外高橋を監督していたが、訴外高橋はその業務中に本件事故を惹起した。

3、運転者訴外高橋は前方不注意、徐行または一時停止を怠つた過失があつた。

(三)  損害

(原告田上分)

原告田上は昭和四〇年一二月一四日から同四一年四月中ごろまで入院し、その後同年八月まで通院して治療をうけ、その間同年五月末日まで勤務先を欠勤せざるをえなかつた。

1、休業損 金三六四、八三一円

一ケ月給与六六、三三三円×五・五ケ月

2、慰藉料 金五〇万円

(内金五〇万円請求)

(原告池田分)

原告池田は昭和四〇年一二月一四日から同四一年九月末まで入院し、その後同年一二月末日まで通院して治療を受けたが、なお後遺症が残つた。勤務先は同年一〇月末日まで欠勤を余儀なくされた。

3、休業損 金四二四、三二〇円

一ケ月給与四〇、二八八円×一〇・五ケ月

4、慰藉料 金一五〇万円

(内金一〇〇万円請求)

二、被告

(一)、本件事故の発生は受傷が不知のほか認める。

帰責事由は、3の運転者の過失を認める。その余否認。

損害は争う。

(二)、原告らと扶桑運輸との間において、本件事故について、昭和四一年九月二〇日左記裁判上の和解が成立した。

(1) 扶桑運輸は原告ら各自に対し金六〇万円を支払う。

(2) 和解成立後一年六ケ月以内に後遺症が生じた場合、これによる損害賠償請求は妨げない。

(3) 扶桑運輸に対しその他の請求をしない。

そこで右金員は保険金から支払うことになり、扶桑運輸は保険金請求に関する一切の書類を原告らに交付し保険金は支払われたのであるから、かりに被告に賠償責任があるとしても、もはや損害賠償金の支払義務はない。

三、被告の右(2)の主張に対する原告らの答弁

被告主張の和解が成立したことは認めるが、その余は否認する。原告らは、扶桑運輸の倒産のために和解金を受領することができず、また事故車に付された任意保険金の契約者が被告であつたために、保険金も受領することができなかつた。

第三、証拠〔略〕

理由

一、本件事故発生は受傷を除き当事者間に争いがない。

〔証拠略〕によると、原告田上は、本件事故により頸部捻挫(いわゆるむち打ち症)、これに伴い大後頭三叉神経症候群の症状を呈する傷害をうけたことが認められ、また〔証拠略〕によると、原告池田も右事故により脳しんとう、頭蓋内出血、頸部捻挫、右肘部挫傷の傷害をうけたことが認められる。

二、帰責事由

〔証拠略〕によると、扶桑運輸は近畿日野ジーゼル株式会社から事故車を月賦で購入して、これを自社において運行の用に供していたが、ただ信用がなかつたために訴外昭恵運輸株式会社の名義をかりて買いうけ同社の所有名義にしておき自賠保険(強制保険)も同社名義にしてあつたこと、被告は扶桑運輸の代表取締役であつて事故車の任意保険については被告名義で契約していたこと、扶桑運輸は資本金一〇〇万円、出資者は被告の外二名、従業員は本件事故当時一二名、保有する車両は一〇台以下の小規模の会社であり、仕事について運転者に対する指図や監督は主として被告が直接していて本件事故当時従業員の訴外高橋に指図して運転を命じたのも被告であつたこと、本件事故後の昭和四一年九月ごろ扶桑運輸は倒産したことがそれぞれ認められる。右事実によると、いかに小企業であつても、扶桑運輸が法人格を有し、その名において営業している以上、同社が事故車の運行車であり、任意保険の契約者が被告であることをもつて、被告が事故車の運行供用者であると認めることはできず、自賠法三条による責任を問うことはできない。この点について原告の主張は理由がない。

ところで、被告は扶桑運輸の代表者として仕事についてそのほとんどを現実に指図、監督していたのであるが、同社の従業員であつた訴外高橋が被告から運転を命ぜられ、その業務執行中に本件事故を惹起し、右高橋に過失があるので(この点は当事者間に争いがない)あるから、被告は扶桑運輸の代理監督者として民法七一五条二項により本件事故から生じた原告の損害を賠償する責任がある。(最判昭和四二年五月三〇日集二一、四、九六一参照)

三、損害

原告田上分

右田上は、昭和四〇年一二月一四日から昭和四二年一月二八日までの間に大阪市城東区北中浜町大道病院に一一日間入院し、同病院および大阪赤十字病院へ五〇回通院して治療をうけた。その症状は頭痛、項部痛、頸部運動制限等で最終診療時には軽い後遺症を残すのみで軽快していた。〔証拠略〕

1、休業損 金二三二、一六五円

原告田上は大阪市東成区大今里北之町平石断熱工業所に勤務していて、事故前三ケ月間において受給金額合計一九九、〇〇〇円(平均月収金六六、三三三円)であり本件事故による受傷により事故当日から昭和四一年三月末まで欠勤を余儀なくされた。〔証拠略〕

従つて休業損は六六、三三三円の三・五ケ月分である

2、慰藉料 金三〇万円

右受傷、治療経過、事故の態様等諸般の事情を斟酌して原告田上の肉体的精神的苦痛に対する損害は金三〇万円が相当である。

原告池田分

右池田は、前記大道病院に昭和四〇年一二月一四日から昭和四一年四月五日まで一一二日間入院し、その後熊本県人吉市の球磨病院に同月九日から同年六月二日まで五五日間入院し、さらに同年七月二六日まで八回通院してそれぞれ治療をうけた。症状は当初昏睡状態で頭痛、頭重、目まい、吐き気、逆行性健忘があり、後頭部、項部の疼痛は後遺症として長く続いたが、現在では治ゆしている。〔証拠略〕

3、休業損 金三四三、六九七円

原告池田も前記平石断熱工業所に勤務し、事故前三ケ月の収入合計は金一二一、三〇五円(平均月収四〇、四三五円)であつて、前記受傷により事故当日から少くとも昭和四一年八月ごろまでは就労できなかつたと認められるので、〔証拠略〕休業損として、四〇、四三五円の八・五ケ月分を認める。

4、慰藉料 金八〇万円

原告池田の症状、治療経過等その他諸般の事情を考慮したうえ、その慰藉料を金八〇万円とするのが相当である。

四、原告らと扶桑運輸との間で被告主張のとおり裁判上の和解が成立したことは当事者間に争いがない。右和解金が支払われたことを認めるにたりる証拠がないから、被告の抗弁は理由がなく採ることはできない。なお右和解条項中の権利放棄条項については、原告らと扶桑運輸との相対的効力にとどまり、被告に対しては及ばないものと解する。

五、損益相殺

ところで原告田上は、自賠保険金のうち治療費を差引き九九、〇〇〇円を受領している。(同本人尋問の結果)

また原告池田は治療費分を差し引き受領した自賠保険金の残は少くとも

二二四、〇〇〇円-(一五〇、〇〇〇円+一八、〇九四円)五五、九〇六円である。〔証拠略〕

従つて右金額を本件損害額から控除すべきことになる。

原告田上 金四三三、一六五円

原告池田 金一、〇八七、七九一円

六、結論

原告らの本訴請求中、被告に対し原告田上は金四三三、一六五円、原告池田は金一〇〇万円およびこれらに対する訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四三年一一月二三日から右各完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を求める限度で認容し、原告田上のその余の請求は失当として棄却することにする。

訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 藤本清)

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